脳血管疾患のひとつである脳出血についての発生メカニズム、症状、治療について解説していきます。
脳出血は、昔は脳溢血(のういっけつ)と呼ばれていました。
発生のメカニズム
まず脳血管障害の発生の直接的な原因は、脳血管の動脈硬化です。動脈硬化は、生活習慣の乱れにより生じる老化現象が原因とされています。この動脈硬化が脳血管にて生じると脳出血や脳梗塞の原因となります。
脳出血の症状
脳出血は、出血量により重症度が大きく異なってきます。
・突発的な意識障害
・頭蓋内圧亢進症(頭痛・嘔吐・アニソコリア)
・運動麻痺
・言語障害
好発部位
1位 被殻出血
原因血管
レンズ核線条体動脈
頻度
45〜55%
特徴/症状
被殻出血は高確率で隣接する内包にも出血が及ぶため、重度の運動障害・感覚障害を生じます。
2位 視床
原因血管
視床穿通動脈、視床膝状動脈、前脈絡叢動脈
頻度
30〜35%
特徴/症状
視床は第3側脳室に接しているため、血腫が脳室内に穿破することがあります(脳室穿破により頭蓋内圧の上昇が軽かったり、血腫による脳実質の破壊が最小限に済む場合もあります)
視床は全ての感覚刺激が集まる中継地点です。視床が損傷されると反対側の全ての感覚障害が生じます。その他に、意識障害や運動麻痺のほかに両側眼球の内側下方を凝視する眼球偏移、縮瞳、垂直方向注視麻痺といった眼球運動障害がみられます。
視床症候群(デジュリン・ルシー症候群):病巣と反対側の感覚障害と耐え難い異常な自発痛(視床痛)、不全片麻痺、運動失調、同名半盲が起こります。
3位 皮質下
原因血管
中大脳動脈(皮質枝)
頻度
5〜10%
特徴/症状
出血は頭頂葉が1番多く、次いで側頭葉、前頭葉、後頭葉の順番といわれています。
頭痛やけいれん発作、血腫の部位の局所的な症状が出現します。意識障害を起こすことは少ないです。
4位 小脳
原因血管
上小脳動脈、後下小脳動脈
頻度
2〜5%
特徴/症状
小脳出血は上小脳動脈や後下小脳動脈の末梢枝が小脳付近で破綻して起こることが多く、第4脳室内を穿破することもあります。第4脳室が穿破され、脳室内に血腫が貯留すると髄液の動きが阻害されるため水頭症が起こり脳ヘルニア発症のリスクにもなります。
症状
初期にはめまい、嘔吐、頭痛、歩行障害がみられます。
5位 橋・延髄
原因血管
前下小脳動脈、後下小脳動脈
頻度
3〜6%
特徴/症状
重篤な意識障害や呼吸障害、脳神経障害、運動障害をきたします。
脳幹背部の中脳蓋:一時的に意識障害や眼球運動障害が起こしますが軽症なこと多いです。
中脳蓋より腹側で黒質より背部:重篤な意識障害・四肢麻痺、顔面神経麻痺、外転神経麻痺を伴い予後不良なことも少なくありません。
脳出血が一側の場合は同側の麻痺と反対側の片麻痺が同時に見られる(交代性片麻痺)のが特徴です。
脳出血の治療
脳出血の治療は、出血部位・血腫量・意識障害のレベルなどによって異なってきます。
治療の方針を決定するためには、CTにて出血部位や血腫量などを特定することが重要になってきます。
出血部位
被殻出血
出血が脳表に比較的近いため、手術を行うことによって他の脳損傷を起こすリスクが低いです。
手術適応は、目安としてCT所見にて出血量が31ml以上となっています。
31ml以下の場合は保存的治療となります。
視床出血
血腫が大きい場合には、手術を行うことがあります。血腫量が多い=脳室穿破していることが多い為、水頭症の治療として脳室ドレナージが行われる。
視床の外側には内包があるため血腫除去術にて神経を傷つけることができない為、血腫除去術は適応外となります。
皮質下出血
被殻出血同様に脳表に比較的近いため、血腫除去術を行うことが可能ですが、脳表からの深さが基本的に1cm以内でないと行えません。1cm以上では保存的治療を行います。
小脳出血
小脳も脳表に近くアプローチしやすい為、血腫除去術の適応です。小脳は少量の出血でも脳幹を圧迫するリスクがある為、血腫量に関わらず血腫除去術を適応となります。
脳幹出血
脳幹は、呼吸など生命に関わる中枢が狭い箇所に集中して存在し、傷つけることができません。さらに血腫除去術を行っても回復が見込めず予後が不良な為、脳幹は血腫除去術の適応ではありません。
血腫量
血腫量が小さく、意識障害がなければ手術は行いません。血腫は1ヶ月程度で自然に吸収されていきます。
血腫量が多くても意識レベルに問題がなく、症状の増悪がみられなければ手術は行いません。
脳出血患者のその後
脳出血後は再発の予防を重要になってきます。その為、内服により血圧コントロールを行います。血圧が安定し、意識障害も落ち着いていき、再出血のリスクが低くなればベッドサイドからリハビリを行なっていきます。その後、後遺症が残り継続的なリハビリが必要となればリハビリ専門病院へと転院となります。