では、主に道路交通法について説明させてもらいました。
今回は、そのことを踏まえ自動車運転再開までについての一般的な流れについて説明していきたいと思います。
※自動車運転の再開については各医療機関や地域によってマニュアルが作成されていることがあります。ここではあくまでも一般的な自動車運転再開までの流れについて説明していきます。
自動車運転再開までの流れ
①患者本人や家族から自動車運転再開の希望があるのかを確認
②身体障害や高次脳機能障害の後遺症の有無の確認(神経心理学的検査の実施)
③自動車専門機関にて適正検査や実車評価にて専門機関からの許可
④主治医からの診断書を運転免許試験場に提出し、運転可能か判断される
脳卒中がもたらす後遺症
脳卒中後には、梗塞や出血部位によって様々な症状が出現します。その症状が実際に自動車運転を行う上でどのように影響するか簡単にまとめました。
患者さんに説明をする際に、どの症状でどういった影響が出るのかを理解しておくことも重要です。
運動障害
上肢の運動障害:ハンドルがしっかり握れない・きれない
下肢の運動障害:アクセル・ブレーキの切り替えがスムーズに行えない
感覚障害
下肢の感覚障害であれば、アクセルやブレーキを踏んでいる感覚の加減がわからなくなる。
視野障害
視野が狭くなり、見える範囲が狭くなり接触の危険↑
高次脳機能障害(一部のみ)
①半側空間無視
・無視側のガードレールや車、最悪の場合歩行者との接触
②注意障害
・運転時間が長くなると運転に集中できなくなる
・歩行者用信号が点滅している→もうすぐ信号(車用)が赤に変わるという予測ができない
③構成障害
前方の車との車間距離などにズレが生じる
④失語症
文字標識や記号標識の認識に時間がかかり、注意が逸れ事故の確率が上がる
自動車の運転は、瞬時の状況判断能力や視覚情報からの状況を分析し危険予測をし、危険回避しなければならないなど、多くの高次脳機能を必要とします。
特に高次脳機能障害の①半側空間無視②注意障害が残像していれば高確率で自動車運転の再開は困難だと判断されやすいです。
★もちろん上記の症状は1つのみ出現するのではなく合併して症状が現れます★
自動車運転再開に向けた神経心理学的検査
自動車運転再開に向けた神経心理学的検査は一般的に発症から3ヶ月程度経過し、脳梗塞や脳出血の再発リスクが減り、症状が安定してから検査を行うことが望ましいとされています。
もちろん主治医と話し合い評価時期を決定していきます。
身体機能評価
Brunn- strom stage :基本的にI〜II(stageは、Iが望ましい)
ADL:全自立(装具使用可)レベルでないと難しいです
高次脳機能障害評価
コース立方体組み合わせテスト: 非言語性の適用範囲の広い典型的な動作性の知能検査でありIQの算出が可能
TMT-J:幅広い注意、ワーキングメモリ、空間的探索、処理速度、保続、衝動性などを総合的に測定でき、近年では自動車運転の適性に関する神経心理評価法の一つとしての位置づけも高まっています。
S-PA (標準言語性対連合学習検査):語性記憶(言われた内容を覚えている、約束を覚えている、また自らが予定したことを行う時などに必要な言語を用いた記憶)を把握するための検査。三宅式が最新化され、標準化されたもの。
BIT(行動性無視検査 日本版):「通常検査」と日常生活場面を模した「行動検査」の2つのパートからなり、日常生活や訓練場面における半側空間無視発現の予測や訓練課題の選択への方針が得られる。
CAT(標準注意検査法):7つの下位検査からなり、注意障害の各項目について標準化された検査。
SDSA(脳卒中ドライバーのスクリーニング評価 日本版):これまで英国、米国、北欧、オーストラリアで行われた研究により運転技能予測に有効な検査であることが多数報告されています。4つの検査で構成されており、注意、空間認知、非言語性推測力等から脳卒中ドライバーの運転適性を評価します。
※高次脳機能評価に関しては、各医療機関や文献などで結果の基準値は様々であり、ここでは「この評価バッテリーは何点(IQ何)以上無ければならない」と言うことは述べません(というより、述べれません)。各バッテリーは標準化されているものなので年齢平均などの対比は行うことは可能です。平均点前後であれば再開可能と判断されやすいと思います。しかしカットオフ以下になれば、期間を空けて再評価の対象になりやすいですね。
★日本高次脳機能障害学会などで、学会基準として自動車運転再開可能とされる神経心理学評価の判定基準と作って欲しいですね(あくまで個人の意見ですが、、、)
専門機関での実車評価
医療機関にて神経心理学評価をパスすると、実際に教習所内や路上にて教習車を運転し評価を行ないます。
評価項目は以下の様な内容になります。
安全な速度・車間距離を保つことができ、車線内を走行する。
車線変更:適切なタイミングでウィンカーを出す。
安全の確認を怠らず車線変更を行い、速度を保つことができる。
交差点・標識:信号や道路標識に適切に従うことができる。
歩行者や他車を視覚的に確認することができる。
判断能力:指示を正確に理解し運転可能。
無理のない適切な判断をする。
駐車:指示した場所に正確に駐車(安全にバック)できる。
運転態度:他車の運転に感情的にならない。
他車の運転を邪魔するなど社会的マナーが守れない。
注意が散漫で気が散りやすい。
上記の内容から総合的に判断され、
②条件付き適格
③実車での安全運転練習が必要
④不適格
※②条件付き適格について
〜条件付きとは〜
・雨天時や夜間の運転
・疲労時や睡眠不足時の運転
・混雑してる道や高速道路の運転
・慣れない道の運転
・長時間の運転(30分以上) ←この条件付きになることが多いです。
上記の条件での運転は控えるようにと言われます。
本結果と、医療機関の主治医からの診断書を運転免許試験場に提出し運転再開可能となります。
終わりに
脳卒中患者の自動車運転再開は安易に許可するものでも、一概に禁止するものでもありません。適切に疾病コントロールできた上で、リハビリにより安全運転が可能な身体機能や高次脳機能の改善を図り、自動車専門機関にて専門的な検査を受けるといった一連の流れをつくることが重要です。
また、道路交通法をはじめとした法的知識は運転再開支援には欠かすことはできません。自動車運転再開の支援は医療職種や医療機関等関係なく多職種によるチームアプローチが非常に重要です。